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クロガネ・ジェネシス
大阪 スタジオ
第22話 開戦 VSオルトムス
第23話 血戦 慟哭するネレス
第24話 猛攻のキャッスルプラント
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雑談掲示板
第三章 戦う者達
第23話
血戦 慟哭《どうこく》するネレス
頭の中で、ネレスをどうやって救うのかを考えながら、零児は乗っ取られたネレスと対峙していた。
殺す以外の方法で救う。今零児にその手段はない。天乃羽々羅《アマノハバラ》の札もない。
それは最初から絶体絶命であるといっても過言ではない。
「とりあえずは、お前を殺して、あの女どもにお前の死体をプレゼントするとしよう。あいつらが死しても寂しくないようにな」
「残念だが、俺が行くのは地獄って決まっててな……。俺が死んだって、あの2人のところに行くことはできないさ」
自身の過去とかけて、皮肉を口にする。それを余裕ととったのか、ネレスの表情が精神寄生虫《アストラルパラサイド》を介して醜悪に歪んだ。
「その余裕ムカつく! 覚悟を決めろ! 鉄零児《くろがねれいじ》!」
「やれるもんならやってみなぁ!」
咆哮をあげ、どちらからともなく動いた。
ネレスは一瞬で零児との間合いを詰めてくる。同時に振るわれる拳。
零児は体ごとそれを避けつつ、間合いを取る。しかし、ネレスはそれを許さず、すぐさま追いすがり、連続で攻撃を繰り出してくる。
元々高い身体能力を誇るネレスの攻撃を交わすのは容易ではない。反応が少しでも遅れれば、顔面に拳を1発もらい軽々と宙を舞うことになりかねない。そしてそれだけは避けねばならない。
続きざまに放たれる拳。零児は幾度となく、その攻撃を交わす。
時にその攻撃を右手で払い、顔の位置をずらし、跳躍し、その悉《ことごと》くを、零児は紙一重で回避していく。
――どうすれば……ネルを救える?
考えてその答えが即座に出てこないことは分かっている。しかし、今の零児には他にどうすることもできない。
「どうした!? かわすだけか!? 大口を叩いてそれか!?」
「……!」
全身から汗が出る。体温が上がる。幾度となく襲いくる拳。それは攻撃でありながら、それを回避し続ける零児の姿はまるである種のステップを踏んでいるかのようだった。
元々動体視力と運動能力の高い零児だからこそ、その回避が可能なのだ。その紙一重の動きが、ある種の美しさへと変貌している。
しかし、その様を見て楽しむ観客はいない。いるとすれば、この古城そのものだ。
上昇していく血液の温度を感じながら、零児は息を切らせ始めていた。
酸素が足りない。動きに対して取り込まれる酸素の絶対量が足りない。
意識が半分混濁を始めたところでそのときはやってきた。
ネレスの拳が零児の顎を捉えた。もっとも直撃したわけではない。
拳が飛んでくると判断できた次の瞬間、回避が間に合わないと察し、すかさず、自らの右手で顎をガードした。
拳は止まることなく右手ごと、顎を殴り上げた。
零児の体が高々と宙を舞う。意識をしっかり保ち、しっかり地面に着地する。
「ハァ……ハァ……」
「しぶといな……。だが、体力は限界だろう? 速く楽になれよ……!?」
余裕の表情を浮かべていたネレスの表情が一瞬にして曇る。
瞳孔が開かれ、息が荒くなり、口を押さえる。
「ウッ……ガッ……ハ……バカな……。ウウウウ……!!」
「……なんだ?」
次の瞬間。
「ボエエエエエッ!!」
ネレスの口内から細長く巨大な芋虫が、その姿を現した。完全に外に出てきたわけではなく、胸の辺りで垂れ下がり、唾液ともなんともつかない液体がネルの体を汚す。
「ア……ウ……アアアア!! ク、クロガ……」
ネレスが必死に何かを口にしようとしたが、それは口内から生え出ている芋虫の体に邪魔をされ、言葉にならない。
「ウッ!!」
瞳孔が見開かれたまま、ネレスの口内から出ていた芋虫は再び体内へと戻っていった。
「ウッ……ウーッ……。フー……。あの女……」
ネレスは再び精神寄生虫《アストラルパラサイド》にその身を乗っ取られた。
「精神力だけで……俺を追い出すとは……」
「ネル……」
――やはり、見えているんだな……。
ネレスは今自分がとった行動のみならず、精神寄生虫《アストラルパラサイド》に寄生されてからの視覚情報を全て記憶している。
――戦う中で、ネルの心を表に引きずり出すことができれば……。
零児は1つの答えにたどり着いた。
――戦うしかない! ネル! 痛いかもしれないけど、少し我慢してくれよな!
ネレスの体を乗っ取った精神寄生虫《アストラルパラサイド》はネレスの体を借りてゆっくりと立ち上がる。心なしか若干ふらふらしている。
「フ、フフフフ……」
不気味な含み笑いをもらし、ネレスは零児に向けて突進してきた。無論、拳を構えながら。
零児も同時に拳を構える。言うまでもなくその手は右手だ。同時に、無限投影を発動し、自らの右手に手甲を出現させ装備する。ネレスの弾丸のような拳を拳で受け止める自信がないからだ。
ネレスの拳と零児の拳。同時に2つの拳がぶつかる。互いに伸びた腕は、その形を支える骨に強い衝撃を与えた。
「なにっ!?」
零児の行動に困惑するネレスの表情。今まで完全に防戦だった零児が攻撃に転じてきたためだろう。零児は間髪入れず、ぶつかり合った拳を払いのけ、頭突きをする。
「グッ……こいつぅ!」
ネレスは醜悪な表情で反撃に移る。
「サイクロン・マグナム!」
風をまとい、地面をえぐる力を持った強力な拳。食らうことは即死を意味する。食らうわけにはいかない。
飛び退《の》き、その拳を交わす。拳は対象を失い、地面を深くえぐり、石の床を粉砕した。同時に、辺りに土煙と、粉々になった石が飛び散る。
その石の1つが零児の頬をかすめ、小さな傷をつけた。
「チッ……!」
舌打ちをして、再びネレスと対峙する。上がった息はある程度整ってきている。まだ戦うことは十分可能だ。
問題は魔力の方だった。
この古城に来てから立て続けの戦いで、零児の魔力はほとんど残っていない。魔力の回復には睡眠が一番なのだが、そんな暇は今まで皆無だった。
魔力の不足は体力にも影響を与える。体力面ではどうにかなっても、魔力がなくなれば、全身を循環する魔力がなくなり、その影響で体は一時的に動けなくなってしまう。
だから零児には魔力を使わない戦い方が求められるのだ。
「女を殺すつもりか! クロガネェ!」
前傾姿勢で零児に向かって再び突進してくる、ネレス。
零児は僅かな隙も見逃すまいと構える。
「オオオオオオオオオオッ!」
拳が迫る。もう幾度かわしたか分からないネレスの拳。
零児はその拳より下、手首の当たり目掛けて、右手を振り上げた。
拳に比べて柔らかな手首を打たれ、ネレスは苦悶する。
「ウギッ……!」
「ハアアアアアア!」
零児の右手はすかさず、ネレスの口元へと移動し、ネレスの口を塞ぐ。
ネレスは頭から仰向けに倒れ、零児は両手を自らの両膝で押さえ馬乗りになる。
「クッ!」
「ネル! 聞こえるか! 聞こえるなら返事をしろ!」
無茶な要求だった。
聞こえているのかもしれない。見えているのかもしれない。
しかし、精神を乗っ取られているネレスはその声に答えることはできない。
「無駄なことを……」
精神寄生虫《アストラルパラサイド》はネレスの顔で下卑《げび》た笑いを浮かべた。
途端、ネレスの口から再び巨大な芋虫が姿を現し、零児の顔に迫る。
「なっ……!?」
零児は驚き、膝によって拘束していたネレスの両腕を自由にしてしまう。
「しまった!」
ネレスの右腕が伸びて零児の頭を掴む。そのまま零児の頭蓋を割ろうとメキメキと力を入れ始める。
「ウッ……グゥゥゥゥ!」
零児は右手でネレスの手首を掴み抵抗を試みるが、猛禽《もうきん》のようにつかまれた手は簡単に離れてはくれない。
「クッ……クロ……ガ……」
精神寄生虫《アストラルパラサイド》がネレスの口内から出ているためか、ネレスは一時的に意識を取り戻して、言葉を発する。
その途端、零児の頭を掴んでいた腕から力が抜けて、零児の頭が解放される。
すぐさま零児はその場から離れ、ネレスと距離を置いた。
ネレスもまた立ち上がる。ネレスの口からは精神寄生虫《アストラルパラサイド》がぶら下がったままになっている。
――そうだ!
零児は無限投影により、小さなダガー・ナイフを作り出してそれをネレスの口内から出ている、精神寄生虫《アストラルパラサイド》目掛けて投げつけた。
投げつけた刃は見事に精神寄生虫《アストラルパラサイド》に突き刺さる。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
ネレスのものではない第三者の声が響き渡る。それこそが、ネレスに寄生している、精神寄生虫《アストラルパラサイド》の声だった。
零児はネレスに再び接近し、精神寄生虫《アストラルパラサイド》に突き刺さったダガー・ナイフを掴み、それを動かした。
胴に突き刺さった刃は零児の手により精神寄生虫《アストラルパラサイド》の胴を切り裂いていく。
そしてその刃が精神寄生虫《アストラルパラサイド》の胴を真っ二つにした。
『ギャアアアアアアアアアアアア!!』
こだまする精神寄生虫《アストラルパラサイド》の声。しかし、その声は精神寄生虫《アストラルパラサイド》だけのものではなかった。
精神寄生虫《アストラルパラサイド》は再び、ネレスの体内に戻る。
致命傷は与えたと思うが、まだ油断はできない。次に出てくる機会があれば、その時はチャンスを逃さず必ず殺す。
零児はそういう思いでネレスと対峙していた。
しかし……。
「うっ……うう……ぐす……」
ネレスはすぐさま攻撃に転じることはなかった。
「ネル……?」
「クロガネ……くん……。アア!!」
ネレスは頭を抱えて、膝を突く
「ネル!」
零児はすぐさまネレスに駆け寄ろうとする。
精神寄生虫《アストラルパラサイド》を切り裂いたことで、精神の乗っ取りが弱くなったのかもしれない。
「来ないで!」
ネレスは近寄ろうとする零児を制止した。
そして意外なことを口にした。
「ハァ……ハァ……クロガネ君……私を……殺して……」
「なに……?」
「私を……殺して、早く!」
「ダメだ」
「お願い! 私は……もうクロガネ君を……傷つけたくないの!」
「大丈夫だ! 俺が必ず寄生虫を殺す!」
「私は……もう……十分生きたから……」
涙声でネレスが語る。ネレスの左目から涙が頬を伝う。
「ネル……」
「私は……嫌なの……この手で……人を殺してしまうことが……。もう……この手を血で染めるのが嫌なの……。私も……みんなの所に……」
みんなとは誰のことだろう?
家族? 友人? 親戚? 同僚?
そんな疑問が頭をよぎる。しかし、そのいずれかにしたって、定まっている答えが1つだけある。
ネレスは大切な誰かに死なれたんだということだ。
「だから……今この場で死ねるなら……」
「ネル……」
零児はゆっくりネレスに近づいていく。
なんて言っていいかは分からない。下手な慰めが、今のネレスに必要かどうかは分からない。
それでも零児は彼女の元へと近づきたかった。
「俺……頑張るよ……」
「……?」
歩きながら零児は言葉を紡ぐ。体はすでにボロボロだ。体力も魔力もかなり磨り減っている。
「死にたいなんて……思わなくなるように……。生きることが幸せだと思えるように……。それができなくても、せめて……ネルや、アーネスカが……火乃木やシャロンが、笑って生きていけるように頑張るからさ!」
「……」
零児は思う。なぜ自分はこんなことを話しているのだろう? と。その答えは簡単だった。
零児自身、死を考えた事があったからだ。自らの死を考えたことなんてたくさんあった。悪夢にうなされることもたくさんあった。たくさんの人間を殺し、その上で生きている自分を恥じる気持ちは今もある。
だけど、同時にこうも思う。死は自分に何を与えてくれるだろうかと。死は本当に自分の罪を償うことになるのだろうかと。
答えは出ない。多分一生。
だが、1つだけ思うことはあった。死ぬことより、生きて罪を償う方がずっといいと。
自分を殺せと懇願するネルの気持ち。それが分かるとは言わない。しかし、その思いを聞いて、昔の自分と重ねていることだけは確かだった。
「だから! 安易に死ぬなんて言うなよ……。殺せなんて言うなよ……」
ネレスのすぐ目の前まで零児がやってくる。
「生きていて、何をすれば分からなくなることだってあるかもしれないけど、死ぬよりはずっといいはずだ……」
そして、ネレスと視線を合わせて零児は笑った。
「クロガネ君……」
2人は視線を交わし、零児に釣られるように、ネレスもまた笑った。
「ありがとう………………!!」
「……!!」
ネレスの目が見開かれた。それに数瞬遅れて零児が構えようとするが、それはあまりにも遅すぎた。
ネレスの拳。ノーモーションで放たれた弾丸の如き拳は零児の頬に強烈なダメージを与えた。
「な……!」
頬に拳を叩き込まれ零児は構える間もなく高々と宙を舞った。地面に激突し、何度も転がり、壁に激突する形で止まった。
「ハッ……アア……!」
声が出ない。
同時に迫る死への恐怖と悪寒。背中を氷がバターのように滑っているかのような感覚がする。体中の感覚が麻痺したかのようだ。
「あ……あ……!」
ネレスは放心しながらも、自らの右腕に手をやった。
「あ、あ、や、やめ、やめて……!」
恐るべきことにネレスの右手の甲から血が噴き出していた。出血がなくなるとそこから、人間の目玉のようなものが浮き出ていた。
『オ"マ"エ"をクウ!』
否、それは人間の目玉などではなく、精神寄生虫《アストラルパラサイド》の目そのものだった。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
絶叫するネレス。まさに慟哭《どうこく》。 次の瞬間、その目玉から赤い液体があふれ出し、ネレスの体を包み込み始めた。
第22話 開戦 VSオルトムス
第23話 血戦 慟哭するネレス
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